S11(S10) シルビアとマイナー旧車

錆の化学

旧車の所有者にとって、共通の悩みは錆の問題だと言っても過言ではないでしょう。当たり前の話ですが、車のボディーには鉄板が使われています。勿論、鉄は錆びるのが当り前です。鉄にとっては錆びている状態が一番自然な姿なのですから。

旧車が錆びやすい原因1

自動車メーカーは錆の問題に対し色々と対策を行ってきており、その妨錆処理技術の向上によって昔の車に比べて格段に錆びにくくなってきています。
現在の車は主に溶融亜鉛メッキ鋼板が使われており、下回りには妨錆処理加工が施されています。板金屋さんなどで使われている物もボンデ鋼板などの電気亜鉛メッキ鋼板が使われています。(これは後述するイオン化傾向が高い金属を使ってメッキする事により、地金より先にメッキが腐蝕(腐食)し、地金を保護するものです。(犠牲アノード被膜といいます))
旧車の場合、錆に対する考えが甘かったのか技術が低かったのか分かりませんが妨錆処理が満足に行われていない場合が殆どで、錆びやすいのが現状です。

錆を防ぐには

錆とは、鉄などの金属が酸素と結びつく(化合する)事、つまり酸化する事です。
− 本当は錆びていないように見える鉄であっても、表面は安定した黒サビ(四酸化三鉄Fe3O4)で覆われています。つまり既に酸化しています。それが傷などの物理的刺激により、赤サビ(三酸化二鉄Fe2O3)が生成されます。 −
ですから錆びないようにするには、当り前ですが金属を酸素に触れないようにすればいいのです。それがメッキであったり、塗装なのです。
錆がまだ発生していない状態ならば、予防は割と簡単です。錆に強い塗料を塗るなどすればいいのです。
では錆が既に発生している場合はどうでしょうか。

その方法は色々あります。錆を綺麗に落して、その後に塗装をする方法が一番一般的ですが、旧車に関しては他の方法も有名ですね。

妨錆塗料

オールドタイマー誌で有名なPOR−15や、日本のメーカーが出しているラストボンド、ボルボに純正採用されているノックスドールなどが有名です。これらは錆の上から塗っても大丈夫で、錆の進行を防ぎます。
ただ、他の物に関してはは判りませんが、POR−15は錆が無い所にも塗った場合、剥がれる事があるそうですので足付けなどの下処理が必要です。

また、亜鉛塗料も上に書いた亜鉛メッキと同じく、犠牲防蝕作用によって錆防止に効果があります。これにはスプレータイプもあるので便利です。

錆転換剤

ホルツのサビチェンジャーが有名です。スプレータイプのラストコートという商品もあります。これらは進行しやすい赤錆を進行しない黒錆に転換し、その上を樹脂でコーティングして酸化を防ぎます。

本来ならば、完全にドンガラ状態までバラし塗料と錆を全て落して全塗装し直すのが一番ですが、私のような貧乏旧車オーナーにとっては上記のような妨錆塗料などをちまちま塗っていく事ぐらいしか出来ません。

旧車が錆びやすい原因2

『電触』『電食』という言葉があります。この電蝕とは『電気化学的腐蝕(腐食)』の事で、異種金属同士を接触させた時、水分があるとその片方の金属が陽イオン化し、腐蝕(腐食)する現象の事です。簡単に言うと、異なる金属同士をくっつけた時、湿気があれば片方が錆びてしまうという事です。水分があればそれだけで鉄は錆びますが、それよりも反応が劇的に早いのです。

電蝕(電食)のメカニズムを解りやすく説明します。

金属にはイオン化しやすい金属とイオン化しにくい金属があります。

イオン化傾向の表

上の方の金属ほどイオン化傾向が大きく(電子を放出しやすく)なります。言い換えると、下の金属がプラスで、上に行くほどマイナスになります。
例えば鉄とステンレスを接触させた所に水分があれば、鉄はステンレスよりもイオン化傾向が大きいので、鉄から水へ電子が放出され、ステンレスへ電子が移動します。
もっと解りやすく書けばステンレスより鉄の方がマイナスですから電位差が生じ、電気が流れるのです。電子はマイナスからプラスへ移動します。つまり、鉄からステンレスへ電子が移動するのです。当然、電位差が大きいほど(表の上下に離れているほど)それは顕著に起こります。

マイナスの電子が出て行くので当然鉄はプラス(陽イオン)になります。金属が陽イオン化すると水に溶けていき、錆が発生するのです。

因みに、アルミニウムやチタンはイオン化傾向が高い方ですが、錆びにくいですよね。これは表面が錆びる(酸化する)とそれが被膜(酸化被膜)となって内部を保護している状態(不動態)になっているからです。他にもクロムやニッケル、鉄なども酸化被膜が出来ます。その酸化被膜は、それぞれで強さが違います。例えばチタンの被膜は非常に強いですが、ステンレスに出来る被膜は塩化物に弱いので、ステンレスにとって塩分は天敵です。また鉄の酸化被膜も、前述のように破壊されやすいです。

旧車の場合、モールなどでステンレスの部品が多用されていたりします。勿論モールとボディーの間には塗装もありますし、プラスチックなどの薄いシートが挟んであります。ですが長年の間に塗装に傷が入ったり、挟んである物が取れたりすると、途端に錆が発生します。
特に注意しなければいけないのは、モールをとめてある所です。最近の車ならプラスチックのピンなどで留めてありますが、旧車の場合はビスで留めてあったりします。その場合は電触で錆が発生しやすいので、早めに何らかの対策を行う必要があります。

電触(電食)を防ぐには

一番確実なのは、当り前ですが違う金属同士を接触させない事です。ステンレスのモールなどが付いている場合、塗料の剥がれが無いかチェックしたり、モールの下に薄いシートを入れたりします。ビスで固定してある場合はそのビスをプラスチック製のピンに交換します。

別の方法としては、もっと錆びやすい金属を付ける方法があります。
これは船舶などではポピュラーな方法です。船舶は絶えず水分にさらされていますので、車より錆びやすいです。そこで鉄よりもイオン化傾向が大きい亜鉛をスクリューのシャフトに取付けたり、船体に貼付けたりします。その亜鉛が電蝕(電食)で溶ける事によって鉄の錆を防ぎます。

車の場合は絶えず水にさらされている訳ではないので、水分がかかりやすい所、つまりタイヤハウス内や下回り等に亜鉛などの犠牲電極を貼付けるのです。勿論、電子が移動する為に車体と導通がなければいけません。この方法は犠牲電極が濡れていない時は効果がありません。それに犠牲電極が小さすぎても大きすぎてもいけません。
そしてこれを商品化した物(本当はもっと複雑だと思いますが)がラストアレスターやラストバスター、ラストイベイダー等です。船舶等で実践されている物の応用ですから、効果は確実にあるでしょう(犠牲電極が濡れているならば)。

また、犠牲電極を使わず、電気を流して電子を補充するという物(らしい)がラストストッパーやラストプロテクター等です。私が使っているのはこのタイプです。原理としては的を射てますが、効果があるかどうかは今の所解りません。

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